ミソフォニアは特定の音 (一般にはトリガー刺激) に対して,反射的に強い怒りや不安に襲われる神経学的な病気と言えます.
以下ではミソフォニアに関するノートをPDFとして公開します.
なお,私 (このページの管理人) もミソフォニアの当事者です.
T. H. Dozier『ミソフォニアの理解と克服』のまとめ等
Dozier,T,H. (2017). Understanding and Overcoming Misophonia, A Conditioned Aversive Reflex Disorder Second Edition, Published by Misophonia Treatment Institute.
の内容に重点を置いている.
ただしこのDozier,T,H.の本はミソフォニアの本格的な研究が始まる前の古い文献であり,今や内容の信憑性の観点から,本稿よりもShaylynn Hayes-Raymond “Misophonia Matters”を優先的に読むことを勧める.
本稿になお意味を持ち得る箇所があるとすれば,それは専らミソフォニアに対する筆者の当事者としての直観を交えた自伝・体験談,哲学的な理論武装,および随所に断片的にちりばめたレトリックだろう.
J. J. Brout『大人のミソフォニアの手引き』
【PDF】J. J. Brout『大人のミソフォニアの手引き』全訳
「過去5年間にわたって」(つまりちょうど私がミソフォニアを発症した頃から),ようやくミソフォニアの厳格な研究が行われるようになり(原文p.28),この点は希望が持てる.
また筋弛緩法のミソフォニアへの応用は難しいと著者が考えていること(原文p.55)も注意を惹く.
しかしながら著者が提案する実践も同じく,どれだけの効果が期待できるかは疑問の余地もある.それらはミソフォニアの完全な治療法・解決策ではなく,特にミソフォニック反応の瞬間に応用することが課題となることは著者自身も認めているところである.
Shaylynn Hayes-Raymond『ミソフォニア・マターズ』
【PDF】Shaylynn Hayes-Raymond『ミソフォニア・マターズ』全訳
過去6年で(2017–2018年頃以降)ミソフォニアの研究が本格的に行われるようになってきた一方で,にせ医者や非専門家が重要な先行研究や患者の声を無視して,科学の装いの下で再現性に欠く,擬似科学と呼ぶべき独自理論を「治療法」と称して盛んに発表している.これは私の邪推だと信じたいものの,そのような研究者らはミソフォニアを,ビジネスチャンスとなり得る餌場ないし未開拓の分野程度にしか見なしておらず,場合によっては病気が本物かどうかにさえ本当は関心がないのかもしれない.著者はこのようなミソフォニア研究の非倫理的な現状を批判的に斬ってみせる.とりわけ認知行動療法(CBT)は思考や感情が意識に昇る前のミソフォニック反応そのものを取り除く治療法ではなく,また暴露療法に効果がないことは既によく分かっている(著者が繰り返し述べているように,もし暴露療法が上手くいくなら,ミソフォニアの人々は日常生活で多かれ少なかれ否応なくトリガー刺激に曝される中で,自動的に治っているはずである).さらにミソフォニアは学習された行動障害でもなく,我々は音を嫌悪“しないことを学習する”ことはできない.見落とされがちであるが,医学が自らの限界を正直に設定することによって,患者が過剰な医療化から解放されることもある.現状を踏まえると,差し当たり我々が着実にできることは,ミソフォニアの人々に対する理解と配慮を求めることを含め,我々ミソフォニアの人々を擁護することを通じて,病気とともに生きる方法を学ぶことである.